0人が本棚に入れています
本棚に追加
数日後、冬華の職場では、また飲み会があった。
もちろん、冬華も白井も参加した。
そして、しばらくお酒の席を楽しんでから、冬華はいつものように、
「すみません、9時も過ぎてしまったので、お先に失礼します。」
そう言って、ひとり店を出た。
でも帰宅はせず、店の近くの喫茶店に入る。
カフェ・ラテを注文し飲み終える頃、窓の外に目をやると、少し離れたところに白井が立っている。
それは偶然ではなかった。
白井は時間をずらし、冬華に会う為に飲み会を中座してきたのだ。
白井と冬華の付き合いも1年近くなり、それが、二人きりになるためのいつもの行動になっていた。
そして、いつものように喫茶店を出た冬華が、白井と目を合わせ微笑み、いつものようにスムーズに二人でタクシーに乗ろうというその時、いつもとは違うことが起きた。
「冬華さん…?」
目の前に、友博が立っていた。
友博も、たまたま職場の飲み会があって、近くの店で飲んでいたのだ。
友博は、冬華が喫茶店を出たところを目撃し、似てると思い近寄ったが、お互いを見つめ合う恋人同士のような冬華と白井に気付き、愕然とした。
「芳川さん…。」
とても気まずい空気が流れた。
おそらく何十秒という時間を経た頃、いきなり友博が冬華の手首を捕まえた。
「咲本さんの彼氏かな?それじゃあ、僕は失礼するよ。夜道が危ないから送って行こうと思っただけだから。」
白々しい言葉を放ち、一人でタクシーに乗り込む白井だった。
残された冬華は、友博の前で動悸が治まらない。
「ちょっと、お茶でもしませんか。」
断れる状態ではなく、強引に手を引かれて喫茶店に入るしかない冬華だった。
さっきとは違う喫茶店だったのが、せめてもの救いだ。
最初のコメントを投稿しよう!