第1章

2/2
前へ
/2ページ
次へ
「いらっしゃいませ。」  「ホットコーヒー2つ。」  「かしこまりました。」  友博は勝手に注文し、冬華を直視した。  当然のことながら、冬華は目が上げられない。  「僕が質問する立場ではないかも知れませんが、あの方はどなたですか?」  「…上司よ…。」  目を伏せたまま、冬華は小さな声で答える。  「単刀直入に言います。冬華さんは、不倫をしているのですか?」  「…いえ…。」  「申し訳ないけど、二人はどう見ても恋人同士に見えました。」  「まさか…。」  「違うと言い切れるのですか?それとも、彼は独身ですか?そうじゃないですよね。彼は僕のことを彼氏かと尋ねました。」  「なんで、あなたに責められなくちゃいけないの?」  「責めたい訳ではないのです。ただ、僕の憧れの女性が、つらい恋をしているのなら、ほうってはおけないのです…。」  「…。」  冬華はそっと目を上げた。  そこには、真剣な顔の凛々しい男性がいた。  「…。」  「…。」  何分の間があったのだろうか…。  運ばれてきたコーヒーに、二人とも口をつける様子はない。  冬華は、自分でも何故だか分からないまま、涙が出てきた。  今度は逆に、友博の方が慌てた。  「すみません、そんなにキツいこと言ってしまったのかな…。」  「ううん…違うの。芳川さんが、とても清潔に見えて、私は汚れてて…。」  それ以上、言葉にならないほど涙は溢れてきて、止まらなくなってしまった。  「そんなことない。冬華さんは汚れてないですよ…。ほんと、僕が追求し過ぎました。すみません。」  1時間ほど喫茶店に居て、冬華を家まで送り届ける友博であった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加