第1章

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白井が先に帰った後、しばし呆然としていた冬華だったが、何故か涙は出なかった…。  そうして、ゆっくり歩き出す冬華であった。  ぼんやりしながら、何分位、歩いたのだろう…。  歩いてきた実感はない冬華であったが、いつの間にか、自分のアパートの前に着いていた。  部屋の前に行くと、そこには友博がいた。  「芳川さん…。」  冬華は急に力が抜けて、そのまま友博の腕の中に倒れ込んでしまった…。  「冬華さん、大丈夫ですか?」  数十分後、冬華は目を覚ました。  「え?」  自分のベッドに横たわっているのに、目の前に友博がいる光景があって、全く理解が出来なかった…。  「気付いたんですね、良かった。」  「…。」  「僕、何となくあなたの顔が見たくなって、あなたのアパートに来たら留守でした。帰ろうかと思ったところに、あなたがフラフラ帰宅してきて、気を失ってしまったんですよ。」  「…。」  「あ、すみません。玄関を開けるためにバッグを開けたことと、勝手にお部屋に入ってしまったこと、謝ります、ごめんなさい…。」  「あ、いえ…お世話になったんだもの、こちらこそお礼を言わなくちゃ。有難う…。」  「冬華さんの心配しているようなことは何もありませんので、大丈夫ですよ。」  「…ええ…芳川さんは紳士だもの。信じるわ。」  しかし、そう言った冬華の眼が急に曇った…。  白井からの仕打ちを思い出したのだ…。  
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