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彼への想いを思い出にする、そう決めてきたはずだーー
「あ、あのさ」
勇気を出し、彼の顔を見る。けれど、彼の視線の先には私はいなくて。真っ直ぐな瞳の先にはあの子がいた。私には一度も向けられたことのないような瞳ーー
「なんだよ」
彼はあの子から目を離さない。胸が締め上げられているかのような、息苦しさが私を襲う。
「告白、しないの?」
彼は慌てたようにこちらを、私を見た。
「よ、余計なお世話だ」
顔を真っ赤にする彼が愛おしくも、憎たらしい。
「当たって砕けろ、だよ。それに伝えないと‥‥」
言葉が詰まる。バカだ、私はーー
「一生後悔する」
沈黙の後、彼はゆっくりと立ち上がり、私に背を向けて歩き出す。
「全くお節介なんだよ。でも‥‥」
立ち止まり振り返りると、無邪気な笑顔を浮かべ、真っ直ぐ私を見つめる。
「ありがとうな」
再び私に背を向け、彼女のもとへと颯爽と駆けていく。私一人、桜の下に残された。
「なにが、ありがとうな、だよ、バカ」
小さく呟いた言葉は空に溶けて消えていく。目から止めどなく涙が溢れてきた。泣き顔を見られたくなくて、顔を伏せる。
ボタンあげる相手、間違ってるよ、バカーー
アイツから貰ったボタンを強く握りしめた。桜を乗せた風が慰めるように、私を撫でていった。
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