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校舎から見えていた桜はもう散って、桜の中の入学式は終わっていた。沢田健は三年になって早々に配られた進路調査の紙と自分達の進路について説教垂れる教師の言葉に嫌になった。
進路。二年の時も悩んでたが三年になって迫って来るものを感じた。親戚の世話になっている分、健は就職しようと思っていた。だが、人の良い親戚夫婦は悲しむだろうか。
あの夫婦を悲しませるのは嫌だ。
教師の言葉は終わり、各々帰り支度を始める。だが健は動く気になれず窓から外を見つめた。
「沢田!帰ろーぜ」
廊下から叫ぶ岡田に健は呆れたように視線を向けた。
彼は三年になっても相変わらず変わらない。
岡田はずかずかと教室に入ってきて健の前の人の椅子に座った。
「進路調査の紙、忘れるなよ」
「…分かってる」
どうやったら忘れる事が出来るのか。
健は紙を鞄に閉まった。それを岡田は見て満足そうに笑った。
「…お前その保護者ヅラ止めろ。どっちかって言うと俺の方が保護者だからな」
「えー?そうか?」
間抜けな顔で返す岡田に健はまた呆れたように目線をよこした。
「お前はどうするの?」
席から立ち上がると岡田は弾むように健の後ろを歩いた。まるで犬のようだと健は思った。散歩を楽しみにしている犬。
だが、これからの路、このやりとりは無くなる。健は失っていく物をまた思い出すようで先を考えるのを止めたくなった。
「俺は頭よくないからなぁ…一応バスケできれば良いんだよな」
「お前以外とバスケできるんだっけ?」
「うん?たぶん、一応レギュラーだし。優勝したし」
この岡田という男はあまり周りを気にしない。そして健もバスケに詳しくないのであまり分からないが
彼は有名な高校生選手らしい。
そして本人もあまり自覚してない。
「あ、あれは?弟子入り。霊退治とかやれば?」
健は振り向きながら岡田を睨み付けた。
「絶対に嫌だ」
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