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妖かし屋の事務所は相変わらず古臭いビルの二階だ。一階には怪しい占い屋と三階には剥製を取り扱っている店がある。
変わった事と言えば妖かし屋に新しいメンバーが入った事だろう。所長の水口新(みずぐち あらた)の弟、水口継(みずぐち けい)が入ったのだ。
だからと言って水口継はあまり事務所にいない。何をしているのか分からないが水口も星谷も何も言わない。
健は今日も水口継が不在なのを認識しながら事務所の掃除に精を出していた。星谷なずな(ほしたに なずな)のデスクに積み重なっている本を片付けていく。星谷はソファの上で夢中に本を読んでいる。
読み終わったら片付ける。そんな簡単な事ができない程、彼女は夢中に本を読んでいた。古くさそうな本を見ている限り、きっと心霊についての本なんだと健は勝手に思った。
所長の水口は新聞を読みながら健の入れたコーヒーを飲んで入り口を見た。健もつられて入り口を見る。誰か来る気配を感じて健は本を置き、お茶を入れ始めた。
「…すみません。」
「いらっしゃいませ」
健がお茶を用意できるのと同時に客は入ってきた。客は女性だった。二十代後半の綺麗な女性。だが彼女の周りには黒いモヤが絡みつくように漂っていた。
星谷は本を閉じ、女性を見つめていた。星谷と同い年か年上ぐらいなのに星谷は凄く若く見える。幼い顔立ちの星谷と所長の水口を見て女性は不安そうにした。
「こちらへどうぞ。お茶を飲んでゆっくり話してみて下さい」
水口は星谷の隣に座ると足を組んだ。健は入れたばかりのお茶をテーブルに置き、女性に頭を下げた。
女性は用意されていたお茶に薄気味悪さを覚えたのか自身の腕を擦った。
「…あ、あの…私…清水彩(しみず さやか)って言います。あの…いきなり、こんなこと言って信じてもらえるか…分からないんですけど……」
「大丈夫ですよ。ゆっくり話してください」
健は入口で止まったままの彼女に優しく笑いかけるとソファへ促した。健は一年も働き慣れたのか猫を被るのが上手くなった。水口と星谷が好き勝手言うからなのか、健は優しい笑顔で接客するようになっていた。
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