8人が本棚に入れています
本棚に追加
「星谷」
水口は星谷に問いかけた。星谷は黒いモヤの先を探すように彼女を見つめていた。
「…何か常に持ち歩いている物はありますか?」
女性は首を傾げながら自身の鞄を開けた。開けると更に黒いモヤが増した。彼女は机に携帯電話、鍵と鞄の中身を並べていく。その中に黒いモヤを発信している物があった。
「その…鏡は?」
小さな丸いコンパクトミラーだった。金色で模様が彫られているコンパクトミラーはアンティークみたいな調度品のような高そうな物だった。
健は気味の悪さを感じ後ずさった。
「これは友達から貰った物なんです」
「ずいぶん古そうな物ですね」
「友達はアンティーク物が好きで…これは誕生日にくれたんです」
星谷が触ろうとすると水口は遮るように先に触った。黒いモヤは彼女の周りを更に包んだ。
「…何かあるんですか?」
「憑き物ではないですね。これは呪いだ」
「呪い…」
彼女は当惑したような表情で鏡を見た。
「…その呪いは解くことはできるが…あんたの友達、付き合いを考えた方がいい」
「止めてください!彼女がそんな事するはずありません!」
女性は水口の言葉を信じたくないのか責めるように水口を睨んだ。
健は黒いモヤの気持ち悪さに吐きそうになった。その姿に星谷は気づき健の隣に駆け寄り背中を撫でた。
「…じゃあ帰るんだな」
水口の突き放すような物言いに女性は苛立ちながら事務所を出た。
健の吐き気は治まり、健は水口を見た。
「…大丈夫なんですか?あの人」
「まぁ、大丈夫ではないだろうな。でも軽い呪いだしな」
「あれがですか?」
健は水口の冷たい物言いに睨んだ。水口は頭をかきながら健を見た。
「現にいきなり出てくるのも霊じゃない。ただ、そのようなものを見せているだけだ」
「霊じゃない…」
「ただ怨み辛みってのは酷いとあんな風にまとわりつく、それにヤられて吐きそうになったろ」
健はあの黒いモヤを思い出して背筋を寒くした。あれが友達に向ける怨み辛み。
「…呪いは解けるけどかけた人に返る。壷毒もそうだったでしょ?」
健はここのバイトに入った時の事を思い出した。犬の呪いを作り出した女性。
呪えば跳ね返る。そして生きている人間が怖いことも。
最初のコメントを投稿しよう!