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継はゆっくりと目をふせた。長い睫毛が影を落とす。健は水口と似た顔の彼が別人の顔つきに見える時があった。双子とはいえ全てそっくりということはないが、水口と継は全く別物。元は同じなのに、違う。
健は二人をそんな風に見ていた。
「…例えば、彼女は友達の彼を奪ったのかもしれない」
「え?」
「例えば彼女はずーっと友達を見下していたのかもしれない」
継は淡々と口を開いては閉じた。
「例えば彼女は結婚をしていて友達は未婚なのかもしれない」
「例えば彼女は妊娠していて友達は子供ができない体になってしまったのかもしれない」
「例えば彼女は仕事に成功していて友達はなかなか上手くいかないのかもしれない」
継の例え話はどれも現実にある世界で健は背筋が寒くなった。人は簡単に傷付け傷付き、人を恨む。
他人が羨ましく恨む。
それは小さな子供から大人まで。
「…だからって、呪いをかけるだなんて…」
「……呪いをかけた友達はどんな感情でやったか分からないけど。それをさせてしまったのは彼女でしょ」
継の冷たい物言いに健は悲しくなった。
継は落ち込む健に小さく笑った。彼はわざと健を傷つけに来たみたいだ。
いや、彼は星谷なずな以外どうでも良いのだ。兄の水口が傷つこうが、親が悲しもうが。それは半分の妖怪の力がそうさせているのか分からないが水口とは全く別物の存在だと思った。
「星谷さんが同じように他人からそう思われていても、自分のせいだと彼女に言えるんですか?」
継は綺麗に笑った。健は不覚にも彼がとても綺麗な存在に見えた。冷たい、成人した男を。
「なずなは誰かを責めないよ。自分のせいだと悲しむのがアイツなんだよ」
継は窓から落ちるように地面に降りた。健は軽やかな動きを目で追いかけなかった。
暗闇の景色をぼんやりと眺めていた。
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