<シャーロック・ホームズな夫>

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「寝てる恵美さんの指をリングゲージで測っただけですよ。僕なんて名探偵には程遠いです。それよりも海外ドラマの、カーテンーポワロ最後の事件ーはご覧になりましたか?やはり最終回だけあり、衝撃的でしたね。一応ネタバレはしないでおきますね」 「……ちょうど次の休みにでも見るつもりだったんだ」 母の言葉に緊張もほぐれたようで、彼は饒舌っぷりを発揮して父を困らせていた。二度目の「まいったな」と呟いたときには、彼と顔を見合わせて笑ってしまった。 それからは前半の緊張感が嘘のように和やかな雰囲気で進み、無事に結婚を認めてもらえた。よくドラマなどで見る‘娘はやらん’という展開に多少の憧れに似たものはあったが、私が二十七歳、彼が三十四歳なので、自己責任というかたちで二時間ほどで終わりを迎えた。 そして彼の両親はすでに他界しているので、そのまま墓前に挨拶をしに連れて行ってもらい、その日のうちに区役所にいき婚姻届けを提出した。てっきり祝福の言葉をもらえると想像していたが、実際には“はい、受理しました。お疲れ様でした’と事務的に処理され、私たちは夫婦になったのだった。 仕事のこともあり式の日取りは未定だが、夫婦という恋愛のゴール地点に辿りつけたので、そこまで急ぐことはないだろうと結論づけられた。 「夫婦になったんだね、私たち」 「そうだね、僕の妻として改めてよろしくね」 「なんか照れるな。よろしくね。あまりホームズばかりに夢中にならないでよ?」 「大丈夫、これからは気をつけるから」 顔を見合わせる。なんだか恥ずかしくなり、互いに顔をそむけた。幸せだった。私達なら大丈夫。問題が生じたなら解決すればいい。ホームズが解決してきた難事件に比べたら、たいした問題ではないのだから。 しかし幸福に満ちていた結婚生活は、ゆっくりと破綻への道のりを歩むこととなったのだった。
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