<シャーロック・ホームズな夫>

18/67
前へ
/466ページ
次へ
結婚生活は同棲を経てからというのもあり、目新しさは想像していたよりもなかった。それでも私達だけに当てはまる大きな変化はあった。 まずホームズ関連のグッズの購入をしなくなった。入荷待ちだったフィギュアも、一回百円のガチャガチャでさえもだ。 そして以前は再放送されると分かれば「リアルタイムで見てこそ本当のファンだよ」と、誇らしげにテレビの前で胡座をかいていたのに、見ないどころか録画もしなくなった。 家では変わらずホームズの格好をしているものの、ホームズばかりに熱中しないでという私の言葉を守ってくれている。 時折、パイプを口にくわえて、ベランダで遠い目をしている姿をみかけると、自由を奪ってしまったことに罪悪感を覚える日もあった。 けれど夫が趣味より自分を優先してくれる環境は、やはり心地がいいもので、私は幸せだった。 破綻への第一歩を踏みだしたのは、結婚をしてから約半年後のこと。それは突然、順調に歩んでいた恵美の道に立ち塞いだ。
/466ページ

最初のコメントを投稿しよう!

345人が本棚に入れています
本棚に追加