<シャーロック・ホームズな夫>

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溜息とともにアルバムを閉じる。形に残っている思い出を見返すと、いつも目頭が熱くなる。 彼が無職となり、半年が経過した五月三十一日。平年よりも早く、関東が梅雨入りをしたと気象庁から発表され、予報通りに今朝から雨が続いている。 「ほう、今晩の夕食はカレーだね?なに簡単な推理さ。スーパーの袋にジャガイモと人参、玉ねぎが入っているからね」 「それは明日の夕食の材料だよ。カレーじゃなくて肉じゃがのだけどね。今日のは冷蔵庫に入ってるから、温めて食べて」 「恵美は食べないのかい?僕の記憶が正しければ、たしか昨日も食べていないはずだが」 「……もう寝るから、勝手に食べて」 「なるほど。そういうことか。ずばりキミは生理中なんだね?スーパーの袋とは別にある黒色のビニール袋、そこから飛びでている紙袋にはドラックストアーの店名が印字されているし、なにより生理用品は外から見えないように入れられるからね」 「生理はもう終わった。生理痛が酷いから病院に行ったって話したじゃん。それは予備がなくなったから買ってきただけ」 自分の部屋から出てくるなり、得意げな顔で次々と推理を始める。しかし一度も的中した試しがなく、間違いを指摘されると、いつものように肩を落として無言で冷蔵庫を開いた。 この半年間、状況は悪くなっていく一方だった。グッズを集めなくなったり、私との予定を優先させてくれたのも、ほんの数週間だけ。次第に出かけなくなり、家にこもってホームズの小説を繰り返し読むようになった。 不意に部屋のドアをノックされた。 「恵美、起きてるかい?さっき醤油を使ったんだけど、新しい物にしたんだね。調味料棚を確認したら、初めてみるパッケージデザインのものがあったから。ああ、驚くことはないよ。見るのと観察するのとでは大違いなんだ。他の人は眼で見るだけで、僕は観察をしているからね」 「いい加減にしてよ。本当に自分がホームズだと思ってるの?だとしたら病院に行こう?私が自由を奪ったのがいけなかったんだよね?お願いだから元に戻ってよ」 ドア越しに叫ぶ。我慢の限界だった。友人には何度も相談をした。しかし‘意味が分からない’と、まともにとりあってはくれなかった。 恵美はパソコンを起動させ、検索エンジンを開いた。そして検索欄に“相談・解決”と入力し、エンターキーを乱暴に叩いた。間もなくして検索結果が画面に表示された。
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