<シャーロック・ホームズな夫>

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走行中の電車の窓の外に映る景色が、凄まじい速さで変化していく。その慌ただしさとは対照的に、車内には読書をしたり談笑を愉しむ人達と、穏やかな時間が流れている。里紗と和也に見送られて武蔵小杉を出発した恵美の心情は、まるでその風景だった。 時刻は二十二時二十分。先ほど里紗が緩井に連絡をしたところ、解決すると返信があったと言われた。喜びよりも驚きが先行して信じられなかったが、二人に促されるままに自宅へと向かっていた。 本当に解決するのだろうか。もちろん緩井を信じ、その可能性に賭けた。しかし展開が急すぎることもあり、素直に信じることは困難だった。もしかしたら解決できなかったが、それを正直に話すわけにもいかず、嘘をついたのかもしれない。だが、仮に嘘をついたところでバレるのは時間の問題。それを承知でわざわざ騙そうとするだろうか。しかし…… 否定を否定。恵美の思考は目まぐるしく変化していた。そして考えあぐねた末、帰宅すれば分かるという結果をだし、ほぼ一定のリズムで揺れる電車に身を委ねたのだった。 あと一時間もかからないうちに帰宅できる。もし本当に解決していたら、どれほど嬉しいか。恵美は窓の外を流れる夜景を見つめながら、疑心を片隅に切に願った。
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