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川野恵美から山中恵美へと苗字が変わり一年が経過した。大学卒業後に就職した会社で私の上司となった智也。新入社員だったこともありミスを繰り返していたが、頭ごなしに怒鳴ることなくフォローしてくれたり、改善点を一緒に考えたりしてくれる人だった。
上司なのだから当然といえば当然なのかもしれないが、心の支えとなっていた彼に好意を抱くようになるまで時間は要さなかった。仕事以外の要件で連絡をしたり、相談を名目に食事に誘うなどして徐々に仲を深めていった。
二十三歳の私と三十歳の智也。年の差はあれど深刻に考えたことはなかった。カラオケに行った際に互いに歌う歌を知らない程度だったからだ。
そして二十四歳の誕生日を迎えた日、彼から“大事な話しがある”と言われ自宅に招待された。それまでにも家に行きたいと言ったことはあったが、その度に“散らかってるから”などと適当な理由であしらわれていたから、何事かと身構えたのを今でも覚えている。
当日、川崎駅の改札口を抜けてコンコースに建てられている時計台の下で合流し、そこから徒歩で智也の車が停められている駐車場へと向かった。それから車を走らせること約二十分。閑静な住宅街の一角に智也の住むマンションがあった。四階まで上がり、渡り廊下を進んでいく。心なしか智也は緊張しているように思えた。
黙り込んでいた彼が“部屋に入る前に聞いて欲しいことがある”と口を開いたのは、部屋の鍵を取り出したときだった。
「……実は僕さ、シャーロック・ホームズが好きなんだよね」
彼の真剣な表情から深刻な内容を想像していたので、予想を大きく外れた内容に言葉の意味を理解するのが遅れてしまった。しかし彼は反応に困っている私を尻目に部屋のドアを開けた。
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