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その声は、先ほど扉の方へ向かった怠惰のもので。
彼女の方へと近づきながら、サタンは浅く息を吸った。
「どした?」
問いかける声に顔を上げた怠惰は、その瞳に憤怒を映す。
少しだけ沈黙を置き、やがて扉を思いっきり引っ張った。
木でできていると思われるその扉は、何故だか動くことはなかった。
「……開かない」
「え、いやいや。ちょっと代わってみ?」
怠惰の言葉は信じがたいものであった。
鍵をかけた覚えはない。
しかし、入るときはすんなりと開いた筈の扉は、押しても引いてもびくともしなかった。
2人の魔王の様子に訝しげな顔をした天使たちはそれぞれ視線を巡らせた。
扉の傍に居たミカエルが彼らと同じく扉に手をかけるも、やはり動く気配はない。
「え、ど、どういうことですか?」
「閉じ込められたっぽいねぇ」
節制を司る天使は傍らの希望を見上げる。
少々おどけたような口調で言いながら、彼は眉を寄せる。
ゆるりと視線を巡らしたミカエルは、己の兄をその視界にとらえた。
「兄様――」
「先に言っておきますが、我々も何も知りません」
ルシフェルの視線は扉を開こうと努力を続けている怠惰と憤怒とに向けられている。
力ずくでだめならと鍵穴を探しているようだが、扉のどこにも見当たらない。
「あれを見たら理解くらいできるでしょう?」
淡々と告げられた言葉に、彼は閉口するしかなかった。
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