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不意にザドキエルの耳がぴくりと動く。
「え、あ、……あれ?」
きょろきょろ視線を巡らした彼に、ラファエルは不思議そうな視線を向けた。
“どうしたの、ザドキエル”
そう続くはずだったその言葉は、かけられることはなかった。
やがてはっとした表情をしたザドキエルは、廊下へ――今そのすぐ近くに居る愛の天使を見た。
「アナエル後ろ!何かいる!!」
叫びとしか言いようのない声があたりに響く。
彼の表情は切羽詰ったもので、紅い瞳は真剣そのもの。
普段の彼の様子からはあまり想像できないその声にアナエルは反射的に振り返り、天使と魔王たちもまた、各々視線をそちらへ向けた。
「ザドキエル、何言っ――、」
バツン。
次の瞬間、音を残してアナエルの首から上が消え失せた。
糸の切れた操り人形のように崩れた彼女の腰を掴まえたのは、異様な程に白く太い腕。
廊下の薄暗がりからぬっとあらわれたのは、見たこともないモンスターだった。
「何ですか、あれは」
天使も魔王も、思わぬ事態に一時的に動きを止めてしまった。
まるで当たり前のように彼女の身体を口の中に放り込み、モンスターは光のない目で周囲の者たちを見渡した。
がりり、……ごくん。
『―――――!!!』
玄関前に、響き渡る咆哮。
血で赤く濡れた床をものともせず、口元を紅に染めたモンスターは動けない者たちへ向けて床を蹴った。
†††††
【ChapterⅠ___Ⅰ】
END
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