一章・お姉妹(1)

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1/  自分が他の人間よりも優秀だということに気がついたのは、小学校高学年に上がった辺りのことであり、その頃を境に私は姉を軽蔑するようになった。  姉の白羽早矢は私とは対極に位置する少女だった。  愚図で鈍間で、これといった長所もなく、姉を評する人間は決まって「善い人だね」と口にするけれど、それはそれ以外に褒める箇所が見当たらないからだ。  たった一年早く生まれたという理由だけで平気でお姉さん面をする姉に、嫌悪という暗い感情を抱いていたのは紛れもない事実である。  そう――私は姉が、白羽早矢が大嫌いなのだ。    昼休みを告げる鐘が鳴り終わると同時に、ケータイの電源を入れた私は思わず首を傾げた。  自宅からの着信が十数件も入っていたからだ。  急を要する話ならば学校のほうに直接連絡を入れれば済む話である。  それならこの無数の着信はいったい何を意味しているのだろうか。  それを確かめるべく折り返した私の許に、クラスメイトが弁当箱を載せた机を持って現れた。  私は「ちょっとごめんね」と言って呼び出し音に耳を傾けて母が出るのを待った。  母は携帯電話を持っていない。仮に外出をしていたら連絡の取りようがないのだけども、私のそんな心配は杞憂に終わった。  ほんの一、二回で受話器を取る音が聞こえたからだ。 「美矢?」  母の確認に「そうだよ」と答えた私は続けてどうしたのか、と尋ねた。  電話越しに聞く母の荒い息に、自然と私の眉間には皺が作られた。 「早矢から何か連絡はない!?」 「お姉ちゃん? 特にないけど」  あるいは自宅の着信に埋もれて見落としているだけかもしれないが、姉は母と違ってメールを打てる人間なので何かあったのならばメールを送ってくるだろう。  少なくとも新着メールは届いていなかった。 「テレビを観て。早く」 「テレビって。今学校だよ」  職員室に足を運べば観られないこともないが、テレビを確認しに行くよりも母から直接用件を聞いたほうがどう考えても早かった。 「何かあったの?」 「早矢が――」  消えてしまいそうな小さな声は、教室に飛び込んできた担任教師の足音に殆ど掻き消された。  彼の青ざめた顔と慌てた様子に、昼休みの喧騒さえも霧散する。  心当たりはまるでなく、しかし私の胸では嫌な予感が膨らみ続けて、今にも破裂しそうだった。
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