第1章

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 確かにこの社会や周りの人間関係に一切の不満がなかったのかという問に、はいと頷けばそれは嘘になってしまうだろう。  しかし人生に何一つ不満を持っていないという人間はよほどの幸運と環境と才悩と容姿に恵まれたほんの一部の人間か、超がつくほどの阿呆しかいないだろうから それを考えると私はそれなりに普通に幸せだったと言わざるを得ないだろう。  そう、幸せだったのだ。  笑い、泣き、怒り、喜び、夢をみて恋をして勉強に励み、そして友情を育んだ。  漠然と明日が来ると信じていた。  どれだけ世界に戦争や紛争が絶えなくとも自分の世界だけは平和が続くと信じていた。  高校を卒業して大学に入学して卒業して、就職して結婚して子供が産まれて、子供が成長して結婚して孫が産まれて、そんな絵に書いたような幸せな家庭を築いて静かに死んでいく。  きっとそんな人生が待っていると信じて疑わなかったし、私自身それを望んでいた。  そんな青春の一ページ。 まだまだ人生の折り返しどころか全力疾走真っ盛りの時代。  私は死んだ。
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