第1章

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歌詞のひと言 ひと言を伝えるように 穏やかに歌うその曲は とてもやさしくて 切なかった 歌い終わってコチラを見る彼に、 「 キレイ…。やっぱり好きです。」 そう言って笑ってみせると、自分の目尻から涙が流れたのが判った。 慌ててそれを拭うと 「 有難うございます。……中でタクシー呼んでもらいますね。」 とだけ言った 「 ……はい。」 それきり彼は何も話さず、私達はホテルの中へと入っていった フロントで自分はタクシーを呼んでもらい、彼は部屋のキーを受け取る キーを手にフロントを離れた彼に話掛ける 「 じゃあ、お疲れ様でした。明日には帰国されるんですよね?」 向かい合う形でそう言うと 「 えぇ。」 短く答えられ 「 短い時間で色々経験出来て楽しかったです。特に最後に聴かせて頂いた曲、嬉しかった。」 「 こちらこそ、お世話になりました。」 「 また、会えると良いな。応援してますね。」 そう言った瞬間、彼が左手で静かに私の右手を掬うように取る 彼の顔を見ると、彼も私を見てる 「 あの…… 」 「 明日の9時45分の便なんです。」 「 え?」 「…それまで、一緒に居られませんか?」 「 …… 」 何も言わずにいると、次第に彼の眼が反らされていく その様子に、 今日観たスタッフの会話を隠れて聞く彼の背中や 外で一人歌い『まだまだ』だと言う姿 本番で歌う姿 そして、自分だけに歌ってくれた歌が浮かぶ 私は、近くを通ったホテルスタッフに 「 excuse me? How can I cancel a reservation the Taxi? 」 とお願いした その意味を理解した彼の手に力が入ったのが、掴まれた自分の手から伝わる スタッフに自分の名前を告げると、私達はエレベーターへと向かった…
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