第1章

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彼の部屋のある5階まで、お互いずっと黙り、手だけを繋いでいた エレベーターを降りて廊下を歩き、彼が部屋のキーを開けて中に招き入れられると、抱きしめられた温もりが全身を包む 唇に長めのキスが落ちると、右の目尻から頬、次は左の目尻から頬へとキスが落ちる その後何度もキスが落ちるけれど、着けているピアスに幾度も二人のジャマをされ、額を付けて軽く笑い合う ピアスを外しベットサイドに置くと、彼に後ろから抱きしめられる 二人きりのベットの上は、自分と彼の息遣いしか聴こえない この人は何を思ってるだろう? 認めてもらえない事への悔しさだろうか? もっと上に昇る事だろうか? ただ歌う事? 今、目の前にいる自分は居るだろうか? 会ったばかりの私は居る? 歌う事を止めるのだけはありませんように… そして今、彼は私に聞いてくる 自信が無いかと逆に聞く私と見つめ合っている 「 解ってもらえないかもしれないけど、前に取材で知り合った軍で働く女性にね、聞いた事があったの。女だって事が邪魔だって思う事はないか?って。その人は笑って『今は無い』言うの。『あなたもその内に解る』って。」 「 …… 」 「子供はいる人だけど年下だったから、何でそんな言われ方されるんだってその時はムッとしたんだけど、今は解る気がするの。」 「 …… 」 「 ほら、解ってもらえない。 ……女で良かったんだって、思ったって事。」 「 …… 」 「 捨てられない羞恥心やどうしてもやって来る体の不調や痛みが煩わしかった。好きになったり付き合った人はいたけど、こんな感覚になった人はいなかった。 だから、これは間違ってないと思う。……それじゃダメ?」 彼は何も言ってくれなかったけれど、抱き寄せて私の頬に掛かった髪を唇と手で避けてくれた
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