第1章

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普段、試合の時には選手達の登場口に成るだろう所から観客席を見上げると、暫し圧倒される 楕円形の真ん中の掲示板を背にして、フィールドと観客席の中間にドラムセットや様々な機材が準備される 中継は、間近で撮影するのと、試合を俯瞰で撮る為に上部に設置されているカメラを使う 上部からのを担当してくれるのと、音響を受け持ってくれるのは現地スタッフ そのスタッフとの打ち合わせを通訳するのが私の役目だった スタッフ・メンバー揃っての打ち合わせの後、30分の休憩を挟んで一度通してのリハーサルに入る事になった 近くのショップでコーヒーを買い、スタジアム内を見学してると、高橋さんの後ろ姿が目に入った 動きを止めてる姿に、こちらも自然と身体が固まる やがて、人の話し声が聞こえくる 「 昨日の状態でも充分だったのに、何に拘ってるんだか。」 「 まぁ、デビュー仕立てには有りがちじゃないか?」 「 あぁ、よくあるけどさ。でも、CMに使われたデビュー曲が上手くいったから、勢い込んで拘ってみたいんだろうけど、まだどうなるかも判んないモンに振り回されたくねーよ。」 日本語だから、日本のテレビ局のスタッフだろう ここまでの会話を聞くと、高橋さんが動く気配がしたので、すぐ近くのトイレに駆け込む 時間が経つのを待ってトイレから出ると、急ぎ足で歩きながら冷めかけたコーヒーを飲み干した リハーサルが始まる時間になり、メンバー全員がマイクスタンド前にきたり、それぞれの楽器の調整を始めた 高橋さんの様子は、淡々としている 時には、メンバーと談笑しながら… やがて演奏が始まる… 歌を聴いて、こんなに引き込まれたのは初めての経験だった… スピーディーな演奏に乗せ、何もかも忘れさせてくれるような力強く伸びやかな声を聴かせてくれる 色々な国に取材に回る中で、様々な音楽を聴く機会があったはずだったのに スタッフの間に段々と笑顔が生まれて行く 演奏が終わる スタッフが世話しなく動き出す 心無しか、スタッフ達がリハーサル前よりも饒舌になっているように思える 本番は今日の夜だ なぜだろう? その本番に向けて興奮している自分がいた
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