第1章

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リハーサル後の、最終的な打ち合わせに参加し本番の時間を待つだけ その時間を利用して 取材先の動きを把握して置こうと、スタジアムの外に出て、地元テレビ局や新聞社の知り合いに電話を掛けたりしていた ふと、目線が何人かの人だかりに引き寄せられそちらに行くと 次第に、リハーサルで聴いたあの歌が微かに届いてきた 今度はアカペラだ もっとぐっと近付くと、遠巻きに囲む人の先で高橋さんが歌っていた 人々の視線を気にせず歌い続ける彼に、周りからの手拍子が広がっていく 観客は皆笑顔だ… やがて歌い終わると、拍手が巻き起こる 高橋さんは、それに丁寧なお辞儀で応えると、場を立ち去ろうとする パフォーマンスに対する賛辞の意味を込めて彼の肩を軽く叩いた男性に会釈した後で私に気付いた高橋さんが、こちらに寄ってくる 「 観てたんですか?」 「 電話する為に出てたら、人だかりが出来てたんで、つい…。」 「 本番前の、最後の詰めのつもりだったんです。」 「 …でも凄いですね。聴いてた人皆を盛り上げちゃって。」 「 …まだまだですよ。」 高橋さんの応えに、あの時聞いたスタッフ同士の会話が甦る 黙って歩き出す彼の後ろを付いていった まもなく本番になる
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