第1章

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「まあ、今となってはいい思い出よ。今は素敵な彼がいるからもういいけどね。でも、鷹司先輩を見ると、あのときのときめきを思い出しちゃうわ」 そう言って、笑ってコートに戻っていく明日香先輩はとてもとても美しかった。 あんなに素敵な人を振ってまでつらぬいた智樹さんの想い。それは誰に向かっていたのだろう。成就したのだろうか、それとも? どっちにしても、そんなに好きな人がいたのに、あたしと結婚させられてしまったんだ。 あたしが引き裂いてしまったのかもしれない。 あたしは急に息苦しくなって、胸を押さえた。 今も、好きなのかな…… 視界にいるのに、智樹さんがとてもとても遠いところに行ってしまったような気がした。 部活も終わって重くなった心と体をひきずりながら、森野さんの待つ駐車場に行くと、既に智樹さんが車の中にいた。 「お待たせしました。智樹さん、早かったね」 「ああ」 なんだか智樹さんの様子がおかしかった。むすっとしてそっぽを向いている。 サッカー部で何かあったのかな。 「では参りますね」 森野さんがゆっくりと車を発進させた。 あたしもいろいろもやもやしていたから、そのまま黙っていると、智樹さんがようやく口を開いた。 「中川に、何かされなかったか?」 「中川……さん?」 誰だっけ?えーっと 「ああ、サッカー部の中川先輩のこと?」 そう言うと智樹さんはまたそっぽを向いて小さく舌打ちをした。 どうしたというのだろう。 たしか、最近よく一年の教室に、遠藤くんに会いに来る3年生の男の人だよね。 背の高い割と気さくな感じの。 たまたま近くを通りかかったときに遠藤くんに紹介されてから、何回か話したけど、別に何もされてないよね。
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