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第1章 砂嵐
その夜の雨はスルタンの都を潤したが、ライでは乾いた稲妻が凄まじい雷鳴を轟かせていた。あまたの岩石が散在する砂漠は轟々と捲き上る旋風に砂煙が雷雲まで掠めて、その重い天から槍の様に突き刺さる閃光の中に、ライの王宮が蜃気楼の如く浮かび上がる。
一気に夜の帳を引き裂いた雷光と共に、ひときわの轟音がライの王都を鷲掴んだ。大地は震え、人々は臓物を抉り取られるかの恐怖に怯える。鎮怒の祈りが捧げられている最中に落雷があったのだ。
オアシス国ライの中心部を成す王宮の西宮から太い火柱が立ったのを見た領民は、少なくなかった。西宮は国王マハームド・シャイフの王女や庶子の居城があり、雷が直撃したのは庶子ムスターファ・アル・ラ・シルド邸。この時、館の主は不在だった。
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