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20歳のムスターファ・アル・ラシルドは、ライの城門から数里北にあるウード弾きのシャイディーの館にいた。
それは岩山に張りついた蔓の一葉のように小さくて、岩肌を削った壁に嵌められた白タイル以外、一切の装飾がない、忘れ去られた古代の砦あとだ。
高楼に出て、白い長衣(ディジターシェ)が風に旗めくままに、鞭でいたぶられ悲鳴をあげる王都を凝視する黒い双眸の底で、チラチラと燃える蒼い焔。頭上でも稲妻が牙を剥き出している事などお構いなしの若さ。
危険だと言ったところで、聞くお方ではない。
長い黒髪が意志を持つかの様に風に畝るマスターファの背中を黙って見守っていたシャイディーは、ふと吹き込んだ風に眉をひそめて呟いた。
「……不吉な……」
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