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「砂鉄の採れる山ですか。二山ほど越えたところにあるのですが、悪い噂がありまして」 男の問いに村主は、法力の効かない魑魅魍魎が件の鍜治の里に出現しているのだと声を潜め、続けて答える。里の女たちが襲われたり、性質の悪い病が蔓延しているらしい、と。高名な僧侶でも退治できないとあって、里に近づく者は滅多にいなくなってしまったという。何の用事か知りませんが諦めて、修験者殿も聞かなかった振りが身のためですよとの忠言はありがたいが、当事者たちにとっては全くの悪循環であろう。だが。男にはやむにやまれぬ事情があった。 「旦那、刃がこぼれていますね」 神楽を舞う予定の村人たちなのか、数人が村主と錫杖の男の背後を通り抜けて行く。岡目や火男の面を被った者たちの一人がそう囁いて振り返ると、男を意味あり気に手招いた。男の錫杖の細工は村人の誰にも知られていないはずである。現に村主は、彼が法力のみによって妖怪を退治したのだと思い込んでいた。ましてや、巨大な一枚石の所為で、仕込み槍の穂先が欠けてしまったことまで気づかれるなぞ。面の者の意図は不明だが、無視することもできなかった。
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