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横目で彼女を窺う。小柄な体躯には似つかわしくない大きなボストンバックを床に置いていた。更にその横には、使い古された感じの某レディースファッション専門店の紙袋。今日は平日なのだがスタジャンにロゴT、ヴィンテージ風のデニムという恰好。学校帰りに私服へ着替えて遊びに向かう途中というより……家出している最中と感じた。
「お待たせしました。注文された商品は、こちらでお間違えありませんか?」
彼女は本の中身を確認しないまま「はい」と答え、財布からお金を取り出そうとする。「当店のポイントカードはお持ちですか?」「いいえ」「お作りしましょうか?」「いいえ」というやり取りを交わしつつ、会計は進む。
彼女が小銭を漁っている間、俺はどうしても気になったので思い切って声をかけた。
「……変わったタイトルの本ですね」
俺の言葉に、彼女は驚いた表情をしてこちらを向く。しまった、話しかけるべきではなかったと思ったが時既に遅し。焦った俺は、なんとか挽回しようと余計な言葉を続けてしまう。
「いえ、その、自殺に興味があるというか……って、何言ってんだ俺……!」
しどろもどろとなる。一気に顔が熱くなり、自分が何を言っているのか分からない。彼女はすぐに目線を財布へ落とし、諦めたようにお札を2枚、キャッシュトレイへ置く。
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