1章 自殺願望

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――休憩時間中、雑多のフードコート一角で俺は頭を抱えていた。先程、自分が目にしたものを未だ信じられないでいる。 自殺マニュアル……大きなボストンバック……人の腕…… それらのキーワードから察するに、カシハラホノカは何らかの理由で殺人を犯した。そして遺体を遺棄した後、自分も命を絶とうとしている―― 警察に通報するべきかとも考えたが、思い止まってしまう。確証が無いからだ。自分自身、最近思い悩み過ぎて幻覚を見た可能性もある。 触らぬ神に祟りなし、というではないか。俺が放っておいても、いずれ彼女の家族が捜索願を出す。事件は明るみとなって、あっという間に解決される。それだけの話だ。 ……何度もそう思っているのだが、脳裏にカシハラホノカの姿が焼き付いて離れない。気になる。彼女の事が、どうしても。 今まで、俺は波風の無い人生を送って来た。毎日が同じ事の繰り返しで、生きていく事に飽きてしまったのかも知れない。 彼女は、そんな退屈な俺の人生を一変させてくれる……そんな予感を、勝手に抱き始めていた。
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