1章 自殺願望

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定年退職後は毎日早朝からパチンコ屋に出向き、帰りが遅くなっては母から怒られていた豪放磊落の父が、まさかそんな事態に陥ろうとは。 バイト中に連絡を受けて病院へ向かうと、母親は酷く狼狽していた。半狂乱と言ってもいい。必死に慰めつつ抱いた母の肩は、小刻みに震えていた。 父の病気を境に、改めて俺は『死』を意識するようになる。 思い返せば小学生の頃、こんな人生設計を思い浮かべていた。大学を卒業後、一般企業へ就職。25歳頃に結婚し、30歳手前で父親となる。その後、35歳という若さで病死。 年老いた自分が想像出来なかったのかもしれない。みすぼらしい姿を晒す前に、働き盛りの内に死ぬほうが恰好いいと思ったのかもしれない。 ならば、俺は近々死ぬ予定となっている。小学生だった俺が、今の俺を知ったら何と思うだろうか。未来を変える為に奮起するだろうか。それとも絶望して自ら将来を絶ってしまうだろうか…… 将来を絶つ――自殺。それをすれば、楽になれるのだろうか。思えば俺は、楽な道ばかりを進んできたような気がする。担任に言われるがまま高校へ入り、関連校推薦で受験勉強もせず3流大学に入り、大した就職活動もせずに下調べもなしでブラック企業へ就職して身体を壊し、1年後に早々と退職。 失業後は幼い頃から思い描いていた漫画家になるという夢を拾い、賞へ送っては落選の日々。それでも夢を追い続けていれば、いつか叶うと信じていた20代。 夢破れた抜け殻は生きた屍となり、今も現世をうろついている。 今の俺は、生きていても何の意味も価値もない……社会のゴミに他ならない。
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