1章 自殺願望

8/35

936人が本棚に入れています
本棚に追加
/324ページ
心の弱い者が最終的に行き着く選択肢、自死。ならば、どうやって心を鍛え上げればいいのか。 辛い経験をすると他人に優しくなれる、強くなれると教えてくれた亡き祖母。それは違うと、今ならはっきり言える。 傷つけば傷つくだけ、人は弱くなっていく。自分は接客に関して他人から優秀と言われているが、裏を返せばクレームを受けたくないからに他ならない。最初から丁寧な接客を心がけ、笑顔を絶やさないでおけば他者から攻撃を受ける事もない。そう学んで得た技術。この年齢になっても周りから何かを言われれば過去の辛い記憶が蘇り、身体が震えてしまう。すっかり臆病者になってしまった。 ……色々な思いを馳せていく内、俺は注文相手が気になり始めていた。自分と同じく自殺まで考えている相手に、妙な仲間意識を抱いたのかも知れない。 再び書籍に付けられた注文書へ目を向ける。 【――カシハラ ホノカ TEL注文 090-※※※※-※※※※ 商品到着日の午前中に連絡。本日中に来店予定】 本日中……ならば、少し注文センターで待ってみよう。幸か不幸か、ここでもやるべき仕事は山ほどあるのだから。 そして18:55―― ついに、その彼女が姿を現す。
/324ページ

最初のコメントを投稿しよう!

936人が本棚に入れています
本棚に追加