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「すいません」
声をかけられるまで、全く気付かなかった。慌てて目線を上げ、すっかり板についた愛想笑いを相手に向ける。そして俺は、思わず息を飲みこむ。
腰の辺りまで伸ばした髪が店の空調で僅かに揺れている。肌は白く、抱きしめれば折れてしまいそうなほど身体は細い。瞳が大きく、唇はぷっくりと適度な厚みを持っている。唯一の欠点といえば、バニラビーンズのような甘ったるいパフュームの香りがきつ過ぎる事だろうか。けれども、街を歩けば芸能スカウトが黙っていないと思わせる――美少女。
「注文した本が入荷したという電話を頂いたのですけど……」
「し、失礼しました、いらっしゃいませ。お客様のお名前と、注文された本のタイトルをお願いします」
そう答えると、少女の表情が困惑したものに変わった。
「あの、カシハラホノカです。本のタイトル……えっと、なんだったかな……」
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