第1章

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「どれが一番気に入ってもらえるの?」 本気でそう聞いてくる客にに笑顔を向けながら 心の中では舌打ちをする そんなもの知るか、と言いたいのをこらえて とにかく今のうちに売ってしまいたいものを薦める バレンタインだと盛り上がる世間が 誰よりも嫌いな私だけど 皮肉なことにバイトは デパ地下のチョコレート売り場 あれがいいのこれがいいのと騒ぐ女の子たちに こっそり冷えた視線を送る私を 貴方は遠くから見て 憐れむように笑ってた お互い近所に住んでいるのは知っている。 私はチョコレート売り あなたは警備員のバイト いつかあなたは 「クリスマスに働く女子大生なんて 憐れ過ぎてみていられない」と言ったけど そう言うあなただって 聖夜に駐車場の整理をしてたじゃない 店の電球が切れたと言ったら 電球も替えられないのかと 鼻で笑ったあなた ぶつくさ言いながら電球を替えたあなたに 見切り品60円のチョコを恵んであげたのに 「俺の働きは60円か」と 文句を垂れて笑ってた
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