#.01 真夜中の女

16/16
2432人が本棚に入れています
本棚に追加
/355ページ
  「僕の行動を監視している奴らだ。不満があっても、僕のことを恐れて迂闊(うかつ)に手が出せないのさ」 「どうして?」  彼の言葉に女はベッドから這い出ると、ゆるりと首へ腕を絡めて訊ねる。鼻先にかかった女の長い前髪を指先で()いた彼は、茶色い双眸で見つめ答えた。 「その気になれば、触れたもの全てを壊してしまうから」 「触れたもの……全て?」  「ああ」たった一言肯定の笑みを浮かべた彼は、女の発言の意図を汲み取り唇を重ね、再度(ねんご)ろとなる。  女はベッドの上で色のついた息を漏らし、彼の首へ指先を伝わせる。指の間からは【S‐*】の刻印が覗く。  窓の外では、黒地に青い光沢の翅を持つ蝶が一頭游いでいた。  
/355ページ

最初のコメントを投稿しよう!