2432人が本棚に入れています
本棚に追加
/355ページ
1
――20XX年 1月7日。
一面鮮やかな赤い屋根の並ぶ街に、午後4時きっかりの刻限を報せる鐘が響く。
「そろそろ行かないと」
玄関先で、鈴の音にも似た軽やかな声が飛ぶ。
「あぁ、今行く」
シャツの襟を弄りながら、彼は低くもよく通る声で応え、玄関へと向かう。その途中、今ではあまり見なくなった写真立てにぴたりと歩みを止めた。
思い返すように戸棚の上に飾られた写真を見やり、ぽつりごちる。
「しっかし、あいつらに会うのも久し振りだな」
「ほんと……」
これまでのことを振り返り、そしてこれから会う彼らに思いを馳せているのだろうか。
写真を見つめる彼女の茶色い瞳には、喜びと共にわずかな悲哀の色が窺えた。
「たった3年だけど、懐かしいよね」
淡く頬を染め小首を傾げる彼女は、出会った時とほとんど変わらぬ屈託のない笑みを浮かべる。
最初のコメントを投稿しよう!