第八章

35/38
前へ
/293ページ
次へ
「夢よ…」 苦し紛れに言った私。 コウの目が、まだ、ぼーっとしていたから、もしかすると通用するかも…? 安易にそう思った。 「夢なわけあるかよ!!」 いきなり、上半身を起こして、親指で私の目尻を、すーっと撫でた。 「あっ…」 気づかぬうちに、私は涙を流していた。 コウのこんな姿を見るのが初めてだから、動揺したのかもしれない。 私の涙を拭い終わると、指を滑らして、後頭部に手を置いた。 そのまま、ぐいっと、押されて。 着地点は、コウの胸。 トクトクトク… 少し、速い心臓の音。 リアルに聞こえるのは、二人の距離が近すぎるから。
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

180人が本棚に入れています
本棚に追加