第2話

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少し歩いたところで私は足を止めた。 掴んでいた真田主任の手を放した。 「今回も………助けてもらってありがとうございました」 ペコリと頭を下げれば、頭上からクスッと小さく笑う声が聞こえた。 「そんな他人行儀なことはいいって。  好きな女のためだから」 ………好きな女。 その言葉は嬉しかったけど………今の私には胸を締め付けるような言葉だった。 ゆっくり顔を上げれば、優しい顔をして私を見ている真田主任と目が合う。 なんでこの人はこんなに優しくしてくれるんだろう。 おそらく複雑な表情をしているであろう私の頭をクシャリと撫で 「今夜は何食べよっか。最近できた韓国料理屋も美味いって聞いたんだよね。  十和田は石焼ビビンバ好きだって言ってたよな?」 頬を染めて、微笑んでくれた。 私の事をいつも考えてくれる真田主任を嬉しくは思うけど、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 こんな私に振り回されて………元カレに喧嘩まで売って………。 私にはもったいない素敵な男性だ。 「………あの………」 小さい私の声を拾った真田主任は「ん?」と首を傾げる。 私は一度深呼吸してから、覚悟を決めた。 「私………やっぱり真田主任とはお付き合いできません………ごめんなさい」 「え…」 口から出してみると、思ったより自分へのダメージも大きい。 付き合えないと思っているのに………心が痛い。 「なんで?俺達ここ1カ月でだいぶ近づけたと思ったんだけど………」 ………私だってそう思っていた。 真田主任のことを知る度、少しずつ彼に惹かれていく自分にも気付いていた。 だけど、やっぱり………。 「私は真田主任とは釣り合いません………」 きっとこれからも真田主任が他の女性といるのを見る度、胸が痛むはず。 だったらこれ以上、踏み込まない方がお互いの為だ。 今ならまだ傷は浅い。 「理由ってそんなこと?」 軽く眉間に皺を寄せた真田主任は、腕を組んで私を見下ろす。 「え………」 そんな真田主任に戸惑いを隠せない。 「そんなんじゃなくて、俺自身を見て、十和田の気持ちを教えて欲しい」 ………私の気持ち………?
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