第1話

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「とりあえずこれ、いただきます」 私の口から手を離し、その指で真田主任はトリュフを摘んだ。 そして口に放り込んだ。 「うん、甘い」 「チョコですし………」 そして残りの一つを摘んだ真田主任。 「はい、あーんして」 「え?」 「口開けてって言ってんの」 「はい?わっ………!」 無理矢理口の中にチョコを押し込まれ、口いっぱいに甘さが広がった。 ………甘い。 でも思い出のチョコは少し涙の塩気が効いていた。 「あの時………エレベーターの中で少しすっきりしたかも」 振られて一人で淋しい女って憐れまれるよりずっと良かった。 思ったより心が軽くなっているのに気付いた。 真田主任のおかげ、かな。 「俺、十和田と付き合ってるって大見得切ったしなぁ」 困ったように肩を竦める真田主任。 「で、さっそくホワイトデーの話ですが………」 妙にかしこまった口調になった真田主任。 真田主任は私の両手を取り、また真っすぐに私を見つめる。 「ホワイトデーは俺をもらってください」 耳が赤いのはきっと風が冷たいからだけじゃないはず。 照れたように上目遣いで私を見る真田主任が可愛くて。 「ふふ。それは少し考えさせて下さい」 「………前向きに検討をお願いします」 現金だけど、この人の事をもっと知りたいと思った。 まだ胸の傷は膿んだままだけど、この人なら癒してくれそうな気がした。 「とりあえず………一緒にご飯食べに行きましょうか」 「え、え、マジでっ!?」 嬉しそうに飛び跳ねた真田主任は、私が思い描いていたよりもちょっぴり子供っぽい人らしい。 もっと、意外な面も見てみたい。 バレンタインのチョコ、来年からもうちょっと考えないとね。 来年は真田主任の為だけに手作りチョコ作ろうかな、なんて考えながら、真田主任と並んで歩きだした。 《バレンタインの前日に 終わり》
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