第2話

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今日は13日の金曜日。 どこぞの仮面男が暴れそうな日だけど、女性がバレンタインのお返しに期待を込めるホワイトデーの前日である。 本日の就業時間が少し過ぎた頃だった。 「真田さ~ん。バレンタインのお返し、ありがとうございますぅ」 今日は珍しく外回りもせずに私の隣の席にいる真田主任のところに、腰をくねらせながら女性がやってきた。 見た目はそれなりに可愛らしいその女性は、綺麗にラッピングされた箱をチラリと真田主任に見せた。 「ランチ中でいない時にこっそり机に置いて行くなんて、つれないですよぉ。  でも、お返しいただけて嬉しいですぅ」 そっと真田主任の座る椅子の背もたれに手を添えて甘い声を出す。 「あぁ………義理でもきちんとお返しはした方がいいってアドバイスをくれる人がいてね」 私の方は決して見ないけど、言葉の棘がいくつか飛んできて突き刺さる。 えぇ、そのアドバイスをくれた人ってのは………私、なんですけどね。 毎年のことらしいが、たくさんバレンタインにチョコをもらった真田主任。 聞いたところによると、バレンタインの当日、真田主任の住むマンションまで直接チョコを届けに来たというツワモノもいたそうだが……。 『今年は十和田から本命チョコがもらえたから、ほかの人にはお返ししない』 と言い張る真田主任に、 『そんなのダメですよ!ちゃんとホワイトデーにはお返ししましょう!』 と半ば無理矢理お返しを買いに引っ張り出したのも、私だ。 そして、その箱の中身はとある有名菓子店のクッキー詰め合わせだ。 ちなみに、それは私が食べたかったからという理由でもある。 その女性が嬉しそうにクッキーの箱を抱きしめる様子を見て、チクリと胸が痛んだ。 それは、私が選んだという理由もあるけど………。 こうも堂々と本人を前に好き好きオーラを放つ彼女に、以前の私を重ねたからかもしれない………。 あの頃、同じ部署にいたあの人を見ていた私の目も………こんなふうにハートを飛ばしていたのだろうか。 居た堪れなくて、私は机の上を急いで片付け、席を離れた。
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