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「本当は付き合ってないんだろう?真田主任と」
半ば睨むように私を見る元カレに、なんでこんな態度を取られないといけないのか理不尽に思いつつも、その言葉を肯定するべきかどうか悩む。
先月、“付き合ってる宣言”を、真田主任が勝手にしちゃっているから。
あの言葉に救われたのは確かだけど、実際のところ付き合っていない。
ただ、私がこれ以上傷つかないよう真田主任が守ってくれた“嘘”だから。
「さっき、真田主任、あの女と一緒に今夜はどこか行くって言ってたよ」
「………え………」
「自宅までチョコを届けてくれた情熱的な女性らしいしね。
あの押しの強さなら、真田主任、あの人と付き合うんじゃない?
千鶴子とちゃんと付き合ってるわけでもないんだし」
「・・・・・・」
元カレの一言一言が私の心に槍を突き刺すように痛みを与えていく。
ズキズキと………心が痛い。
私は真田主任をもらう資格はないけれど………誰かに渡すのはすごく嫌だと思う自分がいた。
「………なぁ、俺ら、やり直さないか?」
「へ………?」
「やっぱり俺、千鶴子の方がいい………」
「え、でも、あの子は………?」
「千鶴子が俺を選んでくれるなら、別れる」
「な、に、ソレ………」
平然とそんなことを言うこの人に唖然となる。
私はあなたと別れたあの日以来、あんなに胸を痛めていたのに………。
あなたにとってはそんな軽い選択肢だったの?
あの子があなたを選んでなければ、あなたは私を捨てるようなことはしなかったってこと………?
そしてまたあの子を捨てて、私を選ぼうとしているの………?
「なぁ、千鶴子。やり直そう。
あいつ、ワガママ過ぎて疲れるんだよ。
千鶴子みたいに俺の言うこと聞いてくれる女の方が俺は………」
「────アンタ、とことん、バカですね」
元カレの言葉を遮るように、真田主任の声が飛んできた。
じりじりと元カレに詰め寄ると、元カレから隠すように私の前に立つ。
私の視界は真田主任の背中でいっぱいになった。
その頼もしい背中に思わず視界が涙で滲む。
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