第1話

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今日は13日の金曜日。 どこぞの仮面男が暴れそうな日だけど、聖バレンタインデーの前日である。 先月から産休に入った亀山先輩の替わりに異動になったこの課には女性は私──十和田千鶴子(トワダチヅコ)24歳──ただ一人。 その先輩から聞いていたこともあって、お徳用のチョコレートパック一袋を気持ちばかりお洒落なカゴに移し替え、『バレンタインチョコです。ご自由にお取りください【十和田】』と一筆添えて、一番目立つカウンターの上に置いておいた。 「十和田さん、ありがとう」 「ずいぶんざっくりとしてんなぁ。亀山譲りか」 「十和田さんからしかもらえないからありがたくいただくよ」 「これでホワイトデーなんて期待するなよww」 とまぁ………評判は賛否両論だけど。 本日の就業時間も終わり、なんやかんやと言われながらもすっかり空になった篭を片付けるため、今朝持ってきた紙袋を広げた。 そして底にある箱に目を止める。 「・・・・・・」 紙袋の底にあるのは、お徳用とは全く違う、チョコレート専門店で購入した煌びやかなリボンのかかった小さい箱。 「………渡せなかったな」 溜息混じりに小さく呟き、その小さい箱を取り出し机に置くと、お徳用チョコの為に持ってきた篭をしまう。 そして小さい箱を再び紙袋へもどそうとした時だった。 「あれ、それって………」 声の方を見上げれば、外回りから戻ったばかりという態の真田周(サナダシュウ)さんが私の斜め後ろに立っていた。 「あ、真田主任お疲れ様です」 顔を上げて真田主任にそう告げれば、真田主任の視線は私の手元に落ちていた。 慌てて箱を底に押し込み、その代わり空になった篭を取り出して真田主任に掲げて見せた。 「ご好評につき、完売しました」 篭を逆さにして振って見せた。 「って、俺の分は?」 「えっ?真田主任朝から外回りだったから………もしかしてもらってなかったですか?」 そう言えば甘いもの大好きな課長は、一人で何個も取っていたのを思い出した。
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