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突然のこと過ぎてただ瞬きを繰り返す私に、真田主任は少し困ったように微笑んだ。
「………まだ付き合ってもいないけど。
そのくらいの覚悟が俺にはあるってこと!」
そのくらいの覚悟………。
「とか言いましたが………」
しゅんとなって私を上目遣いで見てくる真田主任。
か、可愛いし………。
なんて思っているとクイッと身体を引き寄せられすっぽりと真田主任の胸の中に納まってしまった。
上品な香りに包まれながら私はこれからのことを考えた。
「俺をあんなアホ男と一緒に考えないで。
ちゃんと俺は十和田が好きで、一生大事にしたいって思ってる。
だから、十和田も俺のことを好きになって欲しい………」
耳元で囁かれる苦しげな声。
真田主任の心からの声に、胸がいっぱいになり涙が出そうになる。
真田主任の誠実な気持ちを全く考えていない、自分勝手な思い込みに申し訳ない気持ちになった。
「………本当はもうとっくに好きです………真田主任のこと。
でもまた振られたらと思うと先に進めなくて………だったら嫌われる前に諦めようと思って………ごめんなさい」
私の言葉に、真田主任がピクリと反応した。
「俺のこと………好き、なのか?」
コクリと頷けば更にギュッと抱きしめられた。
「や、ヤバい。ずっと我慢してたのに、キスしたい。
今、めっちゃキスしたい」
「い、今はダメです!絶対ダメ!!」
抱きしめられている今だって通りすがりの人が好奇の目で見ていることだろう。
少し身体を離した真田主任が顔を覗きこんできた。
「じゃぁ………俺んち、来る?」
本当、この人可愛い。
思わず笑ってしまった。
「ビビンバがいいです」
「………うわ、また流された」
「食事の後は………またその時考えましょう?」
「え!?ホントに?俺んちの選択肢もあり?」
嬉しそうに顔を輝かせる真田主任を見て、私も前に進もうと思った。
真田主任となら新しい恋ができる。
幸せな未来が、きっと待っている────
「ね、も一回、好きって言って?」
「………好きです」
「!!!」
「言わせといて………固まらないでください」
お互い真っ赤になって、顔を逸らした。
でも繋いだ指先にキュッと力を込め、私たちは歩き始めた。
《バレンタイン・ホワイトデーの前日に 終わり》
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