第1話

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「すみません、来年からもうちょっと考えますね」 頑張って働いた人に何もないなんて申し訳なかった。 ご自由にどうぞ、じゃなくて、お徳用でも3~4個づつきちんとラッピングしたのを一人ずつ机に置いておくようにしようかな。 と、来年の計画を頭の中で練っていると………。 「そこにあるじゃん」 未だ私の斜め後ろから動かない真田主任は短くそう言った。 「え?」 視線はやっぱり私の手元の紙袋……の中の方。 私は底にある箱を隠すように篭を紙袋の中に入れた。 「な、なにもないですよ?もう空っぽです」 真田主任の視線から隠すように紙袋を私の足元に置いた。 「俺、それでいいから」 その言葉に私はキュッと目を閉じた。 これは………あの人に渡そうと思って準備した。 だけど………。 「どうせそれ、用無しだろ?」 ………用無し。 私は目を開き、“用無し”と言われた箱に視線を落とす。 唯一の本命チョコ。 確かにもう、“用無し”に違いない。 ───あの人の隣には私じゃない女性がいる。 「………真田主任には関係ありません」 それだけ言って、私は帰る準備を始めた。 「でも、俺、チョコ欲しんだけど」 ………意外としつこいな、この男。 ジロリと半ば睨むように真田主任を見た。 「真田主任………チョコならたくさんありますよ」 顎で私の隣の席の真田主任の机を指し示せば、そこにはたんまり盛られたチョコの山。 どれもキラキラでピカピカで可愛らしい包装ものばかり。 なかなかの長身イケメンで仕事もできるこの主任殿はかなりモテる。 真田主任不在中に女性社員が「あれ、真田主任いないの?」と言いながら机に置いて行くのを何人も見た。
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