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「ひ、一晩のお戯れなんて、私無理よ?」
「携帯小説なんて、そこから物語が始まると思うんですけど。
むしろそのくらいのきっかけが欲しいと思ってます。
先輩が望むなら、一生のお付き合いでも構いませんよ?」
「そ、そ、そんなこと、サラッと言うから………いまいち現実味がないというか………」
「サラッとじゃないですよ。
これでも………もう、心臓破けそうなほど緊張してるんです。実は」
と、恥ずかしげに私から視線を逸らす清水に、こっちまで恥ずかしくなって俯いた。
ただ唯一繋がっているこの指先。
今まで一度も触れたことのなかった指先が………もう離れたくないと思い始めている自分に気付く。
「し、清水がこんな私でいいのなら………構わないけど」
「!!」
パッと顔を上げた清水。
「もちろん、構いません!!
仕事ばっかで男っ気なくても、スカート穿いても色気なくても、俺を酔いつぶすくらいザルでも、全然構いません!!」
「あ、あれぇ??清水、私のこと好きなんだよね………?」
「うわぁー!!マジ嬉しい!!
もう、今更撤回とかさせませんよ?」
「う、うん。。まぁ、その………ヨロシク」
そして清水は私の手を両手で握りしめた。
「じゃあ、この後は、ホテルか俺の部屋でもいいですか??」
「………いきなりの展開ね」
「携帯小説的展開では鉄板じゃないですか」
「………いや、そこは“イケメン御曹司”とか“俺様上司”相手だからこそ成り立つわけで………」
「………イケメン後輩も鉄板です!」
どこか必死な清水に笑みが零れる。
「はいはい、分かりましたぁ。
携帯小説的恋愛でいきましょう」
「マジですか!?」
飛び上がらんばかりに喜ぶ清水。
たった今しがた彼氏に昇格したクソ生意気な後輩は嬉しそうに眉を下げている。
そうとなれば………。
────とりあえず今夜はコイツを酔いつぶしてやるか。
私は携帯小説のように甘い女ではないことを教えてやらねば。
そう心の中でほくそ笑んだ私は、新しいビールを追加注文するのであった。
《携帯小説的恋愛 終わり》
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