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「ひゃっ………!」
押し込まれるように乗り込んだエレベーター。
目の前には驚いた顔のあの人とあの子。
そして私の背後には………
「勝手に帰ってんじゃねーよ」
何故か、真田主任。
「さ、真田主任!?」
振り向きざまに声を上げると、真田主任は不機嫌そうに眉を寄せた。
「ほら、それにこれ、入れといて」
両手に抱えたたくさんのチョコをそのまま私の手にしていた紙袋へと押し込む真田主任を呆気に取られて見つめる。
そして主任の節ばった細い指は………あの小さな箱を取り出した。
「で、これは俺がもらう」
と、そのままスーツの内ポケットにしまい込んだ。
「は?ちょ、ちょっと!!」
取り返そうと真田主任の襟を掴む。
それなのに。
それなのに………。
真田主任は私のその手をキュッと掴んだ。
「だってこれ、本命チョコだろ?」
「なっ………!」
「千鶴子の本命は俺だろ?」
な、何故に名前呼び!?
いくら机が隣同士でも私たちはただの同僚(しかも付き合い1カ月そこら)にすぎないはず。
真田主任の不可解な言動に驚き過ぎて声も出ない。
そんな私に替わって口を開いたのはあの子だった。
「十和田先輩と真田主任って………?」
その声にビクリと反応して恐る恐る振り返る。
この狭い空間に、なんという複雑な人間関係が詰め込まれたものか。
振られた女、元カレ、その今カノ、そして訳分からん男。
あの人の腕を掴んだまま目をまん丸くしたあの子と、少し眉をひそめたあの人。
うわ、きっと勘違いされてる!!
慌てて誤解を解こうとした。
「あの、これはっ………」
「えぇ、ご想像通りの関係です。
なので、お二人も引け目なくお付き合いされてください」
私の言葉にかぶされて凛と響いた真田主任の声。
な、何言ってんの、この人………!?
仕事には厳しいくらい真摯で、会社では笑顔すらあまり見せない真田主任。
それなのに、あの人とあの子にニッコリと微笑んで見せていた。
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