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「………いつから?」
にこやかな真田主任とは正反対な、あの人の低い声が聞こえた。
「え?」
「だから、二人はいつから付き合ってんの?」
冷たい視線を私に向けるあの人。
付き合うも何も、ただの同僚なのに………と言いかけたところで、不意に真田主任が私の肩をつかみ自分の胸へと私を抱き寄せた。
ふわりと漂う、上品な香水の香り。
あの人とは違う、香り。
その香りと温もりに、胸の奥がキュッと軋み私は言葉に詰まった。
「ごく最近ですよ。
どこかの誰かと違って千鶴子は同時進行できるほど器用じゃないんで」
「───っ!」
目の前のあの人は、悔しげに顔を顰める。
それに対して真田主任は華麗にスルーし、私の頭を撫でるとふわりと微笑んだ。
まるで『大丈夫だよ』と言わんばかりの優しい笑顔だった。
「お、お似合いです!お二人!」
上ずった声であの子がそう言った。
つい最近まで私の後輩で、私から彼を奪ったあの子は不安げにあの人の腕にしがみついている。
「ありがとうございます。
そちらもとってもお似合いですよ」
そんな真田主任の声と同時にようやくエレベーターは1階に着いた。
やたらと長く重い時間から解放されるように扉が開く。
「では、お先に」
真田主任は二人にそう告げ、私の肩を抱いたままエレベーターから降りた。
とりあえず二人にペコリと頭を下げ、歩調の早い真田主任に合わせて歩き出した。
「んじゃ、飯でも食いに行くか」
私の返事なんか聞かずに、何食うかな~なんて呑気にネクタイを緩める真田主任。
「ちょ、ちょ、ちょっと、待ってくださいっ」
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