第1話

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「………俺、知ってたんだ。  あの人が浮気してるってこと。  偶然見かけただけだけど、多分、十和田より俺の方が先に知ったと思う」 「え………?」 真田さんは私を真っすぐに見据えた。 どことなくその視線には熱が籠っているように思えた。 「俺、ずっと十和田のこと好きだったから」 ………はい? まるで幻聴みたいな言葉。 そんな素振り、今まで真田主任から感じたことはない。 それに私たちが会話するようになったのは、異動してきてからだし………。 「ずっと見てた。十和田のこと。  一途にあの人を想ってる十和田が可愛いなって………。  その笑顔を俺に向けてくれればいいのにって、何度も思った。  だから………あの人が浮気してるの知った時、早く別れろって、念じてた」 「・・・・・・」 「二人が別れた時、正直小躍りしたよ。  でも十和田はそれから毎日辛そうで笑わなくなって。  亀山さんが産休が早まったって聞いて、俺、課長に十和田を推薦したんだ。  俺が十和田の隣で支えてやりたかったから………」 真田主任の言葉は真剣そのもので、冗談ではなさそうなのは分かった。 でも突然過ぎて、頭の処理が付いていかない。 「………あ、ありがとうございます」 とりあえずそう言ってみた。 「プッ。それって俺と付き合うの了承したってこと?」 「ち、ちがっ………モガッ」 突然口を真田主任の手のひらで塞がれてしまった。 「その否定の言葉は聞きたくない。  ただ、これからでも俺のこと知っていって欲しいと思う」 私は口を塞がれたままコクコクと頷いた。 「ありがとう………」 満足げに微笑んだ真田主任に、不覚にも心臓がトクンと反応してしまった。
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