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☆
2月14日のその日は
春の風合いをふくんだフカフカした青空だった
短い黒髪が風にタクトを振るみたい
おばあちゃんの駄菓子屋に
いつも駄菓子を買いにくる同い年の彼が
小学3年生のおさいふにはすこしだけ痛い値段の
涙型のチョコレートを見つめながら
ポケットの小銭を握りしめていたのを
わたしはちゃんと知っていた
だからあの日わたしは彼の笑顔が見たくて
ちいさな貯金箱を空っぽにまでしたのに
「なっち」と呼んだその子は
私の手の中で溶けかけた焦げ茶色の塊をはたき落として
逃げていってしまった
片桐 夏生(かたぎり なつお)くん
わたしの大好きな人
高いところが好きで
校舎の開かれた屋上の扉の向こうにはいつも彼がいた
「机に座ってるより楽しいよね」ってわたしが笑うと
「先生の怒った顔しか見えないしな」って笑ってくれた
屋上はわたしとなっちだけのステージだった
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