まだ色を持たぬ小さなキセキ

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「大丈夫?」 私の隣に腰を下ろした清海が優しく頭を撫でてくれる。 「うん。もう落ち着いた」 先月の半ば、私は初めての赤ちゃんを授かった。 それからしばらくは何事もなかったように仕事に行ったり、家事をしたりしていたのに、先週くらいから突如始まった悪阻。 これ、ナメちゃだめ。絶対。 それまで大好きだったものの臭いが突然全てダメになった。 特に拒否反応が酷いのが甘いものの香り。 毎日のように口にしていたチョコレートの香りを嫌いになる日が来るなんて…。 これは本当に想定外だった。 「さて、それなら踊子さん。 あれはどーゆーことなのか説明してくれるかしら?」 俯いてチビチビ水を飲んでいた私に清海が静かに問いかけた。 私はばつの悪い思いでキッチンを振り返る。 「あれは……ですね……」
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