*9

10/16
前へ
/181ページ
次へ
「それとも何? まさか、あんたが手を出したんじゃないわよね?」 「ッ……」 清香の鬼の形相に瀬乃山の顔が引きつったのを見た途端、冷水を飛び散らせて清香の右手が瀬乃山の頬を引っぱたいた。 パンッ……と弾けるような音が鳴り響く。 「お前ッ……」 「あんた、それで恥ずかしくないの。よく私に顔見せられたわね」 清香の冷え切った右手の感触がまだ頬に残っている。 瀬乃山は頬を擦りながら、何も言えずに清香を見た。 清香は叩いた右手をそっと左手で包むと、労わるように瀬乃山を見上げた。 「……あんた無愛想だから、誤解があったんじゃないの。もう一度話してきなさいよ」 「無愛想って何だよ……」 ボソリと漏らした反論には答えず、清香はタオルで手を拭った。 「失恋したら、焼肉奢ってあげる」
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3204人が本棚に入れています
本棚に追加