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「それにお前には他に仕事があるだろう。もし退職ということで決まったら、総務課の山岸に当面は来てもらって、急ぎ求人をかけることで人事には話を通してある。お前の席も仕事も今のままだ」 「そんな……」 ドサッと重い音が響いて、瀬乃山は顔を上げた。 宮武が抱えていた分厚いファイルを取り落とした音だった。 「おい」 「なんでッ……なんで私じゃないんですか!! 社長の傍にいたいんです、一番私が社長の傍にッ!! 私が一番社長を愛しているんですッ!!」 「お前……」 宮武の据わった目と、衝撃的な言葉に瀬乃山はあんぐりと口を開けた。 「ちょっと待て。お前は神崎と付き合っているんじゃないのか?」 瀬乃山の上擦る声に、宮武は鼻で笑った。 「笑わせないでください。私があんな野暮ったい女と付き合うわけがないでしょう。私には社長だけです」 恍惚とした宮武とは反対に、瀬乃山の頭が動き始める。 それで、とようやく腑に落ちた。
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