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愛羅が宮武を気にしていたのは、恋していたからじゃない。
怯えていたのだ。
締め上げるワイシャツが、ギリッと不快な悲鳴を上げる。
それに耐えきれなくなったのか、宮武は苦しげに喉を開いた。
「一度……」
「何したんだ」
「何って……ちょっとからかってキスしたくらいですよ」
瀬乃山は無造作に襟元を放り投げ、無言で立ち上がった。
そして、床に倒れ込んだまま、えずく宮武の腹部を思い切り蹴った。
宮武がエビのように腹を抱えて呻く。
「……二度と顔見せんな」
「え?」
「聞こえなかったか? 首だ」
「そ、そんなこと出来るんですかッ!!」
苦しそうに腹を抱えてよろよろと立ち上がった宮武に、瀬乃山は至近距離で立ちはだかった。
「当たり前だろ、暴行事件だ。何なら警察沙汰にしてやってもいい。俺は出るとこ出るよ。お前のしたことに比べりゃ、こんな傷害なんてたいしたことねえ」
宮武の顔面がみるみるうちに蒼白になり、眼球がこぼれ落ちそうなほど見開かれた。
表情が抜け落ちる。
しばらくそれを見ていたが、瀬乃山はふと視線を外すと、部屋から出て行った。
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